夢想家の日曜日

化粧した男達に胸を鷲づかみにされてしまった

2022年に聴いた音楽まとめ

はじめに

2022年が終わろうとしている。
思い返せば1月に修論を提出し2月に実家が引っ越し、3月には一人暮らしを始め4月には就職。そのあと数ヶ月インターネットには書けないゴタゴタがあったり秋には修論を投稿用に再構築したりと人の3倍は働いた1年だったような気がする。
正直10月あたりからは業務量が多すぎて常に気絶していたためあまり記憶がないが、とにもかくにも生きている。
昨年書いたブログで「社会と人格をどうバランスとりながら生きていくか」というワードを出したが、実際退勤してからの自由時間がほぼない今となっては例えば通勤時に聴く音楽や湯舟で読む『ONE PIECE』が最後の砦だったりする。
私が私であるために、名前と人格のある一個人として生きるためにはなにが必要なのか。
今年聴いた音楽たちも、期せずしてそれを明確に表している。

ここでは、2022年に初めて聴いた音源の中からお気に入りをレビューする。新譜に限らない。
アルバム/EPの区別は特に行わず、おおむね3曲以上入っている音源をとりあげる。
掲載順はそこまで厳密には決めていないが、それぞれ後に紹介されたものほど気に入ってるということで何卒。
なお、音源中で特に気に入った曲を3曲ピックアップしている。

それではいってみよう。


舐達麻 『GODBREATH BUDDHACESS』(2019)

Like→「LIFE STASH」「GOOD DAY」「100MILLIONS」

一時期仕事を始める前に聴くのにハマっていた一枚。
これを書くために聴き返したところ、6月ごろの湿った行き詰まりの感覚が鮮明に思い出されて気分が悪くなった(ちなみにその後突如として浜崎あゆみにハマる)。そのくらい聴いていた。
最近『ごくちゅう!』(女性刑務所の日常をまんがタイムきらら風に描く作品。おすすめ)で、大麻所持で捕まった主人公が「LIFE STASH」を歌うシーンが出てきた際はめちゃくちゃ笑ってしまった。
「たかだか大麻 ガタガタぬかすな」のイメージが強いように思うが、アウトローな日常を描きながらもその全てが漠として過ぎてゆくかのような静かな諦念も感じられる。

紫牡丹『Omnia』(2022)

Like→「Road to Space」「銀砂漠」「生海」
あるバンドについて書くときに形容詞として先達の名前を引くのは流儀に反するが、このバンドのすばらしさを一言で表せるとすれば「BUCK-TICKSOFT BALLETTHE NOVEMBERSを全部一緒くたにしたような」というのが最も伝わりやすいように思われる。
昨年のNEHANN『New Metropolis』も記憶に新しい中(活休が本当に悔やまれる)、このような音源が聴けるのが嬉しい限り。
先日のイベント「V系って知ってる」も盛況に終わったようだが、もしかするとすでにヴィジュアル系の再構築は始まっているのかもしれない。


Various Artists『HiGH&LOW THE WORST BEST ALBUM』(2022)

Like→「RIDE OR DIE」「Fallen Butterfly」「We never die」

LDH謹製の総合エンタメ作品『HiGH&LOW』シリーズより、『HiGH&LOW THE WORST』と今年公開の続編『HiGH&LOW THE WORST X』の劇中歌をまとめたベストアルバム。
そもそも9月初頭に公開された映画の劇中歌が年の瀬までフルで配信されないってなんなんだよ…とも思いつつ、改めて音楽単体で聴くと単純に曲としての格好良さに度肝を抜かれる。
THE RAMPAGE from EXILE TRIBEもついに今年MIYAVIと共演したわけだし、来年の展開にも期待。


Help Me Plyz『Help Me Plyz』(2021)

Like→「New Balance」「Kikuichimonji (Help Me Plyz ver.)」「Love of Hell (Help Me Plyz ver.)」

ラッパーTYOSiNが率いるバンドの1stアルバム。
今年の夏〜冬の初めあたりまでひたすらTYOSiNを聴いていた時期があり、今回どの音源を選ぶかかなり迷ったがこれで。
TYOSiNの既存楽曲をバンド形式で再構築したものが多いため、原曲との比較も聴きどころ。
「Love of Hell」や「Secret, 2020」では、泣きのギターが原曲の悲痛さや叫びを何倍にもしている。2000年代のエモをアップデートした音像かと思いきや、「Kikuichimonji」のアウトロでは昔のDIR EN GREYを彷彿とさせるブレイクが入ったり飽きさせない。
かねてより私は TYOSiNの声について「憂鬱を人の形にした声」と評しているのだが、とくに「Secret, 2020」の「メンヘラでも何でも言っとけよ これが今の俺のリアルよ」は今年聴いた中でも指折りのパンチラインだった。もはやある程度形式化されてきた(この言葉はあまり使いたくないが、いわゆる「メンヘラ」的な)「病み」表現を脱構築していくという意味で個人的にはかなり重要な意味合いを持つリリックである。
リーヴ・ストロームクヴィストによるフェミニズムコミック『21世紀の恋愛』でも言及されていたように、近代以降すべての事象が科学的に説明可能だとされたことにより、自己や他者の心の動きも論理的な因果をもとに説明可能だとみなされている。
しかしながら『21世紀の恋愛』の主題である恋愛じたい、きわめてuncontrollableなものである。自分自身ですら、いつ誰を好きになるのか・いつ誰を好きでなくなるのかは予想することはできない。恋愛とは、自分の中にある他者性の発露であるとも換言できる。
また、人生において自分が自分とは思えないぐらいのとりみだしを経験するシチュエーションは恋愛のみにとどまらないだろう。そんなときにこそ、「メンヘラでも何でも言っとけよ これが今の俺のリアルよ」の言が光るのではないか。
けっして「メンヘラ」の一言では形容できない自分/他者の予測不可能性を、「リアル」へとたぐり寄せる術を教えてくれるラッパーであるように思う。


釈迦坊主『AHIRU』(2022)

Like→「Moon Sun (feat. Tohji)」「Chewing Gum (feat. Dogwoods & JUMADIBA)」「Pandemonium」

昨年の下半期はほぼ釈迦坊主しか聴いていなかったわけだが、結局今年も死ぬほど聴いていた。
聴き始めて1年ちょっとしか経っていないのにアルバム別再生回数ランキングの2位に『HEISEI』が鎮座ましましているのによくあらわれているが(ちなみに1位と3位はDIR EN GREYでそれぞれ『ARCHE』、『DUM SPIRO SPERO』)、ヴィジュアル系・メタル・ヒップホップ…とにかく私にとっては、自分が今まで聴いてきた音楽たちを全部混ぜた集大成のようなラッパーであり、加えてヒップホップの「聴き方」を理解できるようになったラッパーでもある。
というのも、以前ヒップホップを聴き始めたところ、リリックが金と女の話題ばかりでげんなりしてしまったことがあった(そもそもの人選が適切でなかったともいう)。
ただ釈迦坊主はインタビューでも言っているようにリリックの内容をさほど重視していないように思われる。しかもいわゆるマンブルラップ系で何を言っているか聴き取れないというのもあって、なんとなくリリックと私自身の自我という二者間の距離の取り方をつかめるようになった。
実際釈迦坊主をしこたま聴いているとはいえ、リリックのワードチョイスなどには疑問を覚えることがしばしばあるが、そこをある意味考えないようにして聴くことができているのである(それがあるべき聴き方なのかはともかく)。
現在アルバム制作中とのことで、2023年の楽しみがまたひとつ増えている。


春ねむり『春火燎原』(2022)

Like→「Déconstruction」「春雷」「あなたを離さないで」

chiriterrier.hatenablog.com

↑ここで書いたことが全て。
この音楽に込められた激しい怒りは、けっして暴力を指向するものではない。
祈り、そして対話するための音楽であり、怒りも聖も俗もすべてを抱きしめて私たちは生きていく。
世界を変えるための起爆装置はもう我々の手にある。


宇多田ヒカル『BADモード』(2022)

Like→「Time」「君に夢中」「PINK BLOOD」

一見平凡に見える「いま・ここ」こそが劇的な事象であり、またチルアウトスペースでもある。
「君に夢中」を流しながら歩けばいつでも『最愛』の吉高由里子になれるし、「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」を聴けばここではないどこかを幻視できるように。


Awich『Queendom』(2022)

Like→「口に出して」「Queendom」「やっちまいな (feat. ANARCHY)」 

私がわざわざ言うまでもなく、2022年の日本のヒップホップ界はAwichの躍進とともにあった。
そして、2022年の私における闘争もまた、このアルバムとともにあった。
何度でも言うが、会社の研修先に向かう電車でよく聴いていたのが『春火燎原』・『BADモード』とこの『Queendom』で、『春火燎原』を祈りのための音楽、『BADモード』をチルのための音楽と定義するならば『Queendom』は闘争のための音楽だった。Skit〜「44 Bars」の流れを聴くといつも某駅の某線ホームの風景が思い出される。
『春火燎原』⇄『BADモード』⇄『Queendom』。この3枚による完璧なトライアングルが、折れそうになる背骨を無理にでも奮い立たせ、歩んでいく原動力となる音楽だった。


2022年ベストトラック

Daichi Yamamoto「Simple feat. 釈迦坊主」

2021年のベストトラックでもあったこの曲だが、2022年の今こそまた私はこの曲を必要としている。

Love yourself 
Take some time 難しいけど
Take your time

2023年も、私が私であるために生きていく。
ひとまずは転職活動がうまくいきますように。